
大正浪漫を代表する詩人画家・竹久夢二とアール・ヌーヴォーを代表する画家・アルフォンス・ミュシャ。東と西でほぼ同時代にそれぞれ独自のスタイルを築いたふたりの創作を女性像に見ていく、魅惑的な展覧会が、岡山市の夢二郷土美術館で開催中です。
ありそうでなかった展覧会
竹久夢二(1884~1934)は岡山に生まれ、単身東京に出て独学で絵を学び、独特の世界観を持つ画風で人気を博します。はかなげで抒情的な美人画は「夢二式美人」と言われ一世を風靡しました。マルチアーティストとして詩や童話も創作し、本の装丁や日用品から浴衣の意匠も手がけたデザイナーの先駆けでもあります。時代をけん引した大衆芸術はいまも大正浪漫を感じさせファンが絶えません。
アルフォンス・ミュシャ(1860~1939)は現在のチェコに生まれ、画家を志したパリで手がけたポスターにより一躍名を馳せます。女性の柔らかな肢体を植物の曲線と融合させた華麗で装飾的な画面は「ミュシャ・スタイル」としてアール・ヌーヴォーを代表します。後半生は母国で画家として活動しましたが、パリ時代の創作は、現代のイラストレーターや漫画家にもインスピレーションを与え続けています。

ともに19世紀末から20世紀初頭に、絵画とデザインの領域を横断しつつ独自のスタイルを確立し、その魅力が衰えることなく愛されているふたり。「女性像」でそれぞれに流行を創り出した才は、まさに近代女性画における「東の夢二、西のミュシャ」と言えます。この点に注目し、女性像の比較を通して表現の魅力を見つめなおす素敵な企画はふたつの美術館によって実現しました。
「夢二郷土美術館」は、夢二が少年期まで過ごした生家と、自身で設計したアトリエ兼住居を復元した建物を分館に持ち、彼の肉筆画の随一のコレクションで知られています。「堺 アルフォンス・ミュシャ館」は、ポスター、装飾パネルから素描、油彩画に書籍、彫刻、宝飾品まで、ミュシャの創作を通覧できる体系的なコレクションを所蔵する国内唯一の美術館です。質・量とも屈指のコレクションからの選りすぐりが魅せる、2館ならではの美の競演です。


挿絵画家としてのスタート
夢二は新聞のコマ絵でデビューし雑誌の挿絵や表紙デザインなどを自身の小説や詩とともに手がけます。生涯「生活の中の美」を追求した彼は、「港屋絵草紙店」も開店し、自身デザインの日用品や木版画などを販売しました。
ミュシャは挿絵画家として活動していたころ、初めて依頼された人気舞台女優サラ・ベルナールの演劇ポスターで注目されます。リトグラフ技術が発展したパリで、商業ポスターやパッケージ、雑誌、絵葉書制作に携わり、グラフィック・デザイナーとしての地位を確立します。
デザイナーとして2人はメニュー表はじめ、企業の宣伝物などにおいてそれぞれの時代の空気も感じさせます。ミュシャの歌劇ポスターと夢二が表紙を担当した「セノオ楽譜」には、「音楽」という共通項も見いだせるかもしれません。




女性の表現をくらべる
「夢二式美人」は、それまでの日本画や浮世絵とは異なる、夢見るような大きな瞳と華奢な身体には大きい手足に、同時代の装いの女性像で、明治・大正という新時代の美人画として支持を得ました。その人気は、しぐさや小物にいたるまで成りきる女性が現れて、社会現象になるほど。
「ミュシャ・スタイル」は、当時表されていた近代都市の女性ではなく、シンプルな衣装に均整の取れた肉感的なプロポーションの女神のごとき美人が、からみつくような植物の装飾と一体となった姿で人々を魅了します。
どちらもしなやかで柔らかい女性の曲線美を手足の先まで意識して、自然の風景や植物を画面構成に活かし、淡く繊細な色彩に表しています。しかし、身近な存在を感じさせる夢二と、究極の理想像を創り上げたミュシャの対比が興味深いです。
異国情緒のとらえ方も対照的。夢二は近代に西洋から流入してくる風物を、歴史から南蛮文化にことよせます。ミュシャは、古代文明や異なる民族文化を、近代都市パリの演出として描き出しました。


季節を表現した作品では、四季を女性に擬人化するミュシャに対し、12か月を生活や行事の風物に託す夢二は、人間主体の西洋の目線と自然のなかに人間をとらえる東洋のまなざしを象徴しているかのようです。


故郷への想い/祖国への思い
数え年16歳までを過ごした岡山の思い出は、夢二の創作の原点になっています。「夢二式美人」のルーツは優しかった母や姉であり、郷愁を誘う母子像や幼いころに見聞いた風景などが多く作品に描かれています。
ミュシャは、パリでの成功を振り切って祖国チェコに画家として貢献することを選びました。大国に翻弄されながら誇りを失わなかったスラヴ民族の歴史を描いた大作《スラヴ叙事詩》は、その集大成といえます。1918年に独立を果たしたチェコスロヴァキア共和国のためにポスターや紙幣・切手なども無償でデザインしています。
思い出を抱きしめるように描いた夢二と、祖国愛を高らかに宣言するミュシャ。表出は異なるも、ともに故郷への強い想い/思いが創作の力となっていたことを感じさせます。



似て非なるもの、異なりながら共通するもの、それぞれが交錯し共鳴する空間は、ふたりの作品の魅力をさらに引き出してくれるでしょう。ぜひ、それぞれの眼で相似と差異を探し出してみてください。

東の夢二と西のミュシャ ーSTYLE of BEAUTYー |
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会場:夢二郷土美術館 本館(岡山県岡山市中区浜2丁目1-32) |
会期:2025年3月14日(金)~6月19日(木) |
休館日:月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日) ※GW中の4月22日~5月6日は開館 |
開館時間:9:00~17:00、(入場は閉場の30分前まで) |
入館料:一般1,000円、中高大学生600円、小学生400円 ※夢二生家記念館・少年山荘(分館)とのセット一般1,300円 |
詳しくは美術館ホームページへ。 |
堺 アルフォンス・ミュシャ館での連携開催 8月23日~11月30日 |