歌川国芳《日本駄右ェ門猫之古事》弘化4年(1847) 個人蔵(通期展示)
江戸の浮世絵界に革新をもたらした浮世絵師・歌川国芳(1797~1861年)。その創造力あふれる世界をたっぷりと味わえる展覧会「歌川国芳展 ―奇才絵師の魔力」が、山口県立美術館で9月25日から始まりました。11月24日まで。
今回展示されるのは約400点。迫力ある武者絵や華やかな美人画、庶民を笑わせた戯画、貴重な肉筆画、そして猫をモチーフにした新発見の作品まで、国芳の多彩な魅力を一度に堪能できるまたとない機会となっています。
歌川国芳展―奇才絵師の魔力 |
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会場:山口県立美術館(山口市亀山町3-1) |
会期:2025年9月25日(木)~11月24日(月・休) 前期:9月25日~10月26日 後期:10月28日~11月24日 |
開館時間:9:00~17:00(入場は16:30まで) |
休館日:月曜日(ただし10月13日、11月3日、24日は開館) |
観覧料:一般1,600円、シニア・学生1,400円 ※高校生以下、障害者手帳等をお持ちの方とその介護者1名は無料 ※コレクション展セット券(当日券のみ):一般1,700円、学生1,500円 |
問い合わせ:TEL 083-925-7788(山口県立美術館) |
アクセス:JR山口駅から徒歩約15分/中国自動車道小郡ICから車で約20分 |
展覧会詳細は、山口県立美術館公式サイトおよび特設サイトまで。 |
遅咲きの奇才・国芳の多岐にわたる作品が一挙集結!
国芳は若くして歌川豊国に弟子入りし、絵の道に入りました。しかし、人気を得るまでに長い下積みがあったため、「遅咲きの絵師」とも言われます。しかし30代で挑んだ『水滸伝』の英雄たちを描くシリーズが江戸庶民の心をつかみ、一気にスターダムへとのし上がりました。国芳の死後まもなく描かれた本人の肖像画。 落合芳幾 《国芳死絵》 文久元年(1861年) 個人蔵(前期展示)
従来の浮世絵にないダイナミックな構図と斬新なアイデアを生かし、武者絵のみならず、風刺画や美人画、役者絵など様々なジャンルで頭角を現していきます。その大胆な構想力とユーモアは、現代のポップカルチャーにも通じる“時代を飛び越えた感性”が垣間見られます。展示風景
ワイド版ならではの臨場感や迫力がすごい三枚続シリーズ
展示室に入るとまず迎えてくれるのは、クジラや巨大な髑髏が大判三枚続きに描かれた浮世絵。ワイドスクリーンさながらの迫力で、今にも動き出しそうな臨場感が光る作品ばかり。また、続くコーナーでは国芳の出世作である武者絵がずらり。鬼気迫る怪物や颯爽と戦う武士たちの武者絵たちは、まるで物語の決定的瞬間に立ち会っているかのような感覚を味わえます。歌川国芳《相馬の古内裏》弘化2-3年(1845 -46)頃 個人蔵(通期展示)歌川国芳《坂田怪童丸》天保7年(1836)頃 個人蔵(通期展示)
風刺やユーモアあふれる国芳の真骨頂
次のコーナーでは、国芳ならではの遊び心あふれる戯画が登場。この頃、老中・水野忠邦による天保の改革によって、ぜいたくを禁じる施策や文化統制が行われました。浮世絵においても、春画や役者絵、遊女や芸者を描いた美人画といった人気ジャンルの制作が禁止されてしまいます。
しかし、このような締め付けに対して、多くの浮世絵師たちはただ従うのではなく、皮肉や風刺を織り交ぜた作品で応じることに。国芳の作品にしても、猫が役者に扮したり、金魚が人間のように立ち歩いたりと、ユーモラスで思わず笑みがこぼれるものばかり。幕府の規制に屈せず、庶民の楽しみを守った国芳の才気と反骨精神が感じられるはずです。歌川国芳《みかけハこハゐがとんだいゝ人だ》弘化4年(1847)頃 個人蔵(通期展示)歌川国芳《きん魚づくし ぼんぼん》天保13年(1842)頃 個人蔵(通期展示)歌川国芳《猫の百面相 忠臣蔵》天保12年(1841)頃 個人蔵(通期展示)
元気な女性が好きだった? 国芳の描く美人たち
力強い武者絵や戯画の合間には、舞台を彩る役者や美しい遊女の姿が現れます。文様や色彩が細部まで描き込まれた着物や華やかな色使いはもちろん、《大願成就有ケ瀧縞 金太郎 鯉つかみ》ように構図や着物の柄などに「見立て」の要素を入れた大胆な作品は、斬新で見る人の目を惹きつけます。また、国芳の美人画の特長は、丸みをおびた輪郭や、愛嬌のある表情など、どこか活発さが感じられる点。そんな国芳ならではの描写にも注目したいところです。歌川国芳《大願成就有ケ瀧縞 金太郎 鯉つかみ》弘化2-3年(1845-46)頃 個人蔵(前期展示)歌川国芳《暑中の夕立》嘉永2-4年(1849-51)頃 個人蔵(前期展示)
見逃せない!ほとばしる”猫愛”
国芳は大の猫好きで知られ、日常生活でも猫とともにあったと伝えられています。本展では日常に溶け込む写実的な猫はもちろん、人間のようにふるまう猫たちの作品も数多く登場し、来場者の目を引きます。特に注目されるのが、新たに発見された《流行猫の変化》。洒落っ気たっぷりに描かれた猫たちは、国芳の愛情と観察眼がそのまま形になったかのようです。歌川国芳 《鼠よけの猫》天保13年(1842)頃 個人蔵(前期展示)歌川国芳《流行猫の変化》天保12-13年(1841-42)頃 個人蔵(通期展示)
圧倒される約200点の国芳画。なんと会期中で9割の作品が入れ替えも
見ごたえ抜群の展覧会ですが、大幅な展示替えが行われ、作品の約9割が入れ替わるとのこと。前期と後期で、最低2回は訪れたいところです。
また、本展の音声ガイドは、人気声優二人が担当。猫好きの声優の花江夏樹さんと、美術館巡りが好きな同じく声優の釘宮理恵さんが担当します。ガイドの中には二人が“猫”になりきって登場する場面も必聴です。
ギフトコーナーも動物尽くし!
最後に忘れてはいけないのが、充実したミュージアムグッズコーナー。国芳の猫をあしらったポーチ8種類のうち、どれかが入っている「ブラインドポーチ」(880円)のほか、ポストカードやアクリルスタンド、トートバッグなど種類も豊富です。目移り間違いなしの国芳グッズを、ぜひチェックしてみてくださいね。
国芳の多面的な魅力を一気に味わえる同展覧会を通じて、伝わってくるのがその奇抜で自由な発想です。江戸の町人を熱狂させた奇才・国芳の作品は、現代の私たちにも大きなインスピレーションを与えてくれるはずです。