東京・西麻布に誕生した夜のアートの社交場「WALL_alternative」を体験! 軽食がてらアート談義に花が咲く

「WALL_alternative」が入る建物のユニークな外観

仕事帰りなど、夜にふらりと訪れてアートを楽しめる社交場が昨年11月に東京・西麻布に誕生しました。現代アートを中心とした作品を展示・販売するアートギャラリーを軸に、カウンターバーを併設した「WALL_alternative」という場所です。

プロデュースしているのは、あのエイベックス・グループ。そう、「velfarre」(2007年に閉店した六本木の大型ディスコ)など、人々が集うリアルな場を通じて音楽を中心とした様々なカルチャーを発信してきたエンタテインメント企業です。「WALL_alternative」は、エイベックスならではのセンスで、既存のアートギャラリーではなかなか叶えられなかった社交場としての理想を実現しています。

例えば、平日も24時まで営業しているので仕事で遅くなっても展示を楽しめたり、展示は現代アートをメインとしながらも、店内には良質な音楽が流れていたり、ジャンルレスにカルチャーを発信したりしているので、他の分野に興味がある人々も一緒に交流できます。オリジナルフードと200種類以上のナチュラルワインを楽しみながら、長時間滞在してアート談義に花を咲かせることもできるでしょう。新しいコミュニケーションの拠点になる予感がします。

入り口には、イギリスの作家グレイソン・ペリーの作品が展示されている
建築家・萬代基介が設計した空間は 白いケーブ(洞窟)のよう
ギャラリー 併設のカウンターバーは、スッキリとしていて清潔感に溢れている

「WALL_alternative」が目指しているのは、「アートを中心に様々なカルチャーの発信拠点として、多様な人が集まり有機的に交差することで新しいムーヴメントが生まれる、特異性のある空間」だそうです。エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社代表取締役社長の加藤信介さんは、「アートが好きな方々はもちろんのこと、音楽やファッションが好きな方々も『直感的に良い』と感じるアートを展示していきたい」と意気込みを語っています。

「WALL_alternative」で2月24日(土)まで開催されている「LIGHTS vol.1」展には、20~30代の気鋭作家6名が参加しています。取材時に展示されていた、大澤巴瑠さん、岡田佑里奈さん、國本怜さん、品川亮さん、西村大樹さん、能條雅由さんの作品を紹介しましょう。

國本怜さん

まず私の直感にアピールしてきた作品はこちらです。大きなシャボン玉のような球体が穏やかな光を発しています。近づくとささやくような水音がして森に迷い込んだような気分になりました。

國本怜さんの作品

作者の國本怜さんは、「静寂」をテーマに日本の伝統的美意識と現代のテクノロジーを結びつけ、アラブ首長国連邦、台湾、アメリカをはじめとし世界各地でサウンドインスタレーション作品を発表しているとのこと。

作品の前に立つ國本怜さん

作品が音を出しているのに「静寂」とはどういうことでしょうか?

実は、今回の作品は、地上に現れた水琴窟(すいきんくつ)をイメージしているそうです。水琴窟は、日本庭園の技法のひとつで、地中に埋めた大きな甕(かめ)の底に落ちる水滴の音が心地よく聞こえる仕掛けです。確かに、國本さんの作品から聞こえる音は、清らかで妙なるものなので、心に静寂が広がってリラックスしてきます。球体のデザインや優しい光にも癒されます。

品川亮さん

品川亮さんの作品

きめ細かい金箔に描かれた一輪の椿。日本の伝統絵画かな?と思いきや、作者の品川亮さんとお話ししたところ、大胆な挑戦が秘められた作品だということがわかりました。品川さんは、日本人ならではの美的表現、例えば「間」や「丸みを帯びさせた単純化」などにプライドを持ちながら、古今東西の美的発明を自身の作品に取り入れています。

品川亮さんの作品(部分)

絵の中の椿にクローズアップしてみると、葉っぱは伝統的なたらし込み風(塗った色が乾かないうちに他の色を置いてにじませる技法)ながら、花の部分は印象派的。「筆致」が残る絵など認められなかった時代に敢えてそのような絵を描いて革命を起こした印象派の「筆致」を品川さん流の現代アートに昇華しています。目下、日本独特の「間」の概念を絵で表現しようと試行錯誤を続けているとのこと。目に見えない「間」がどのように絵として姿を表すのかが楽しみです。

西村大樹さん

西村大樹さんの作品

ポエティックで静謐なたたずまいながら、シビアな環境問題に目を向けさせてくれたのは、西村大樹さんの作品です。独自のリサーチを通して、今私たちに降り注ぐ雨は、世界のどこであっても有害な化学物質を含んでいることが分かったという西村さん。お話を聞いているうちに、特殊なコーティングのモヤの向こうに見える風景は、有害な雨に溶かされていく森のようにも見えてきました。

西村大樹さんの作品(部分)

野鳥研究者であった父の影響も大きいと語る西村さんは、鳥の目線で感じた作品を描くこともあるそうです。動物や植物など、人以外の目線で壊れゆく環境への想像をかき立ててくれる新感覚のアートです。

岡田佑里奈さん

ご自身の作品の中から出てきたようなクールな雰囲気で現れた岡田佑里奈さん。何年か前に出会ってピンと来た同世代の女性をモデルにした作品を継続して発表しているとのこと。私は特に、表面のテクスチャーに惹かれました。

作品の前に立つ岡田佑里奈さん

写真を転写の技法によって平面化し、そこに現れた裂け目に塗料を流し込んでいるそうです。繊細な陶器の釉薬に無数に入った割れ目のような質感が、被写体の危うい空気感と共鳴しているようでした。

岡田佑里奈さんの作品(部分)

能條雅由さん

能條雅由さんの作品からは、山を散策したときに上を見上げると広がる枝葉の情景を思い出して、森林浴をしているような気分になりました。

能條雅由さんの作品

場所を特定せずに想像が広がるようにと、複数の場所で撮影したイメージを重ねているそうです。銀箔により醸し出される和の空気感と、メタリックな色彩がバランスよくミックスしているコンテンポラリー感が魅力です。

能條雅由さんの作品(部分)

大澤巴瑠さん

伝統的な銀箔の上に墨で描いた書に見えるのに、全然違うプロセスを経て誕生した作品にも驚きました。大澤巴瑠さんの作品です。なんと、コピー機の原稿台のガラス面に直接描いたものを出力しているのだそうです。

大澤巴瑠さんの作品

コピー機をそんな風に使うなんて! 大澤さんは、「今やコピー機で印刷物を複製するという本来の用途で使うことがあまりないので、作品制作の道具として活用してみました」とのこと。そんな面白い活用方法を見出されてコピー機も喜んでいる?! コピー機に直接描いたイメージは一点ものだけどプリントすると複製物になり、そこに彼女がリタッチするのでまた1点ものになる。「『複製』という行為にバグを起こしている」と語る大澤さんが展開するこれからの作品も楽しみです。

大澤巴瑠さんの作品(部分)

アーティストとの会話もはずみ、気がついたら20時になっていました。会場はコレクターやギャラリストや他ジャンルのクリエイターたちで賑わっていて、初めて会った人々もアート談義に花を咲かせていました。

あちらこちらで アート談義が盛り上がる「WALL_alternative」
バーマスターである恩海洋平さんお手製の、和牛コンビーフのオープンサンドが絶品
200種類以上あるというナチュラル ワインは、ラベルもおしゃれ

ここはこれから、ピカソら文化人が夜な夜な集ったパリの社交場「ル・シャ・ノワール」の東京現代版になるのかも! と、期待が膨らみます。


(ライター・菊池麻衣子)

WALL_alternative
住所:東京都港区西麻布4-2-4
https://www.google.com/maps/embed?pb=!1m18!1m12!1m3!1d3241.762664399384!2d139.72103827529727!3d35.658218631238626!2m3!1f0!2f0!3f0!3m2!1i1024!2i768!4f13.1!3m3!1m2!1s0x60188b2bc14dcb81%3A0x2ca721b2ef0ffa42!2sWALL_alternative!5e0!3m2!1sja!2sjp!4v1707790482917!5m2!1sja!2sjp
営業時間:18:00~24:00 ※日曜定休
入場料:無料
アクセス:日比谷線「広尾」 駅 徒歩8分
千代田線「乃木坂」 駅 徒歩10分
大江戸線・日比谷線「六本木」 駅 徒歩10分
公式サイト:https://avex.jp/wall/
Instagram:https://www.instagram.com/wall_alternative
LIGHTS vol.1
会期:2月7日(水)~2月24日(土)※日曜定休
次回展示である「LIGHTS vol.2」は2月28日(水)よりスタート
展覧会公式サイト:https://wall/exhibition/77
目次